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異文化体験から異文化経験へ

僕たち人間はひとりひとり違います。
年齢、性別、地位、職業、出身地、国籍など。こうしたいろいろな社会的背景が組み合わさって、ひとりの人が形成されています。
僕が学生時代ゼミで勉強していた社会言語学は、こうした社会的背景と言葉の相関関係を学ぶ分野です。

なんか難しいこと言ってますが、やっている内容はとてもおもしろいです。

たとえば、年上にはタメ口ではなく敬語で話す。これは年齢差が言葉に影響を与えている例です。相手が年上だから使う言葉を気をつけなきゃ、と思うのはある意味日本人の常識です。
ところが英語では基本的に年齢差で言葉を変えるということをしません。

だからといって英語に敬語がない、というのは飛躍しすぎです。英語にだって敬語はあります。たとえば店員とお客さん。店員がよく使うMay I help you?という表現は丁寧な表現の代表です。もちろんフランクな店員さんも多いのは事実なので必ずではありませんが。あるいは、お客さんが予約のときにI'd like to make a reservation.とwould like toを使うのも丁寧な表現となります。

日本人にとって、年齢差はまず最初に確認すべき大事なポイントです。だから、ぱっと見同じくらいの年齢の人と初めて話すとき、相手の年齢が気になってしかたないと思います。でも、英語社会では少しの年齢差は人間関係にたいして影響しないので、別に年を聞きたくなったりしないそうです。

このように、「ビジネスシーン」「年齢差」という社会的側面が言葉に影響を与えているよね、というのが社会言語学の研究対象となります。

こんな例もあります。

オーストラリアにアボリジニという民族がいますが、彼らが使う言葉のひとつにクウク語があります。クウク語には、右左を示す単語がありません。代わりに、東西南北で方向を伝え合います。それから、挨拶。日本語なら「こんにちは」、英語なら「Hello」ですが、アボリジニは「今どこに向かってるの?」と挨拶します。だから当然答えは東西南北です。「北北東だよ」とか答えます。

きっと、この言葉を使う民族にとって方角というのは生きていくうえでとても大事な概念なのでしょう。決まったところに居住地を持たないアボリジニが、太陽の位置で方角を知り、それを頼りに移動を繰り返してきたことが影響していそうです。(推測)

これも、社会的側面が言葉に影響を与えてきているいい例だと言えます。

ちなみに韓国語では「ご飯食べた?」っていうのが挨拶だと聞いたことがあります。ちょっと調べたところ、1950年の朝鮮戦争が3年間も続き、その日食べるものに困る暮らしが続いた時期があったそうです。だからご飯を食べたかどうかの確認をいつもしているうちに、挨拶になっていったとのこと。

さて、短期でも長期でも、海外留学して帰国した方に感想を聞くと、「異文化が知れて楽しかった」と答えてくれる方がとても多いです。文化の違いを体験することをきっかけにして、「何がどう違うのか?」「なぜ違うのか?」「どういう歴史が違いを生み出しているのか?」を知ろうとすることで、ただの体験が経験になっていくと思います。

特に長期留学をする方には、こうした異文化経験をたくさん積んで、価値観を広げる良い機会にしていただきたいです。



Naoki