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フランスで放浪した話

フランス南部のジジャンはすぐそこに地中海を眺める小さな小さな町。
そこからさらに奥に車を走らせるとやがて道路は砂利道に変わり、でこぼこと坂道になっていったと思ったらたちまち山のなか。

どんどこどんどこと進んでいった先にようやく見えてきた一軒の小屋と広い土地。電気も水道も通っていない、電波もない、現代の世界とは思えないような場所で自給自足をしながら暮らす夫婦。と赤ちゃんと犬。とヤギと鶏と馬。あとトマト。

それが、僕がフランス留学2ヶ月目に2週間だけ滞在しようと決めた場所でした。



で、1週間で出てきました。

100年の寿命のうちの1週間というごくわずかな期間に僕は天国と地獄を見て、そしてそのことを一生涯忘れることはありません。

そこは本当に美しい場所でした。

8月の夏真っ盛りでしたので、気温は35度を超える猛暑日が続くんですが、なにせ地中海から気持ちの良いそよ風が吹いてくるんです。お昼時になるとハンモックに揺られながら、読書をしてうとうととそのまま眠りにつく。

「あーなんてヴァカンス」



ところが、良いことばかりではありません。

住まわせてもらって食事をご馳走してもらう代わりに、僕は農作業や動物たちの世話、家の改修工事など毎日様々な作業をしていました。だいたい自分そういうタイプじゃないんですよね、今考えたら。で、指示が全部フランス語でしかも南仏特有のアクセントがあったりしちゃって。

指示される→理解できなくて聞き返す→もう一回説明してもらう→やってみる→指示と違う

いやこんなことされたらイライラしますよね。それでどんどんと特に母親の方と関係が悪くなっていき、、、

言語能力の低さ、適応能力の低さ、コミュニケーション能力の低さ、心構えのなさ、自分の甘さなどなどに情けなさを覚えつつ、相手の冷めたリアクションに腹を立てる始末、、、自滅です自滅。



そんなこんなで行く当てもなく夢中で家を飛び出したんです。車輪がひとつ壊れたスーツケースをザーザーザーザー引きずって砂利道を駆け下り、元きた道の記憶を辿りながら

「このまま行ったらどこに着くんだろう」

そんな旅が始まりました。

両脇に背の高いススキの草が延々と広がる、片側一車線の直線道路。

歩道もないその道路の端っこを、ひょろひょろのアジア人が上半身裸で麦わら帽子を被って壊れたスーツケースを引きずりながら歩いているんです。

そんな変質者が歩いていたら、時速90km近い車の中から赤ちゃん用の飲みかけのヨーグルト瓶をぶつけてくる輩も、そりゃいますよね。痛すぎて轢かれたかと思いました。

それでも、僕はなんだか不思議と高揚感を覚えていました。酔ってたんですよね、そのシチュエーションに。冒険してるじゃん!アドベンチャーじゃん!

そんな意味不明な格好をしたアジア人を見て気の毒に思ったのか、道中にあった小さな八百屋さんに立ち寄ると、店主が僕を店の奥に連れて行き、ウォーターサーバーから出たキンキンに冷えた水を与えてくれました。餞別にと、桃を1個くれました。

最終的には、通りかかったポルトガル人のおっちゃんが車に乗せてくれて、駅まで連れて行ってくれました。



とまあ、こんな感じで1年の留学生活のほんの一部分ではありますが、自分でも何がなんだかわからない、そんな目まぐるしい経験をしたんです。

日本でのいつもの暮らしのなかでは感じることのない感情、そして景色ににおい。

何に役立つわけでもないけれど、数々の出来事が、あるときは満面の笑みで、あるときは鬼の形相で、表情を変えながら自分の身に降りかかってくる。

それを「経験」と言うならば、海外留学という名の冒険は、この高品質な「経験」に光の速さでアクセスし、そして一生記憶のメモリーに残すことのできる、まさに5Gのようなものと言えるのではないでしょうか。



文章凝りすぎた気がする。

留学しようかなーどうしようかなーって迷ったら、しましょう。何かを感じるチャンスです。

Naoki