留学すると異文化を経験できるというのは常套句ですが、僕はカナダにいるときに
「あーこれは日本ではなかなか体験できないだろうな」
という出来事に遭遇しました。
舞台はカナダ第3の都市バンクーバーの市街地を走る路線バスのあるバス停。
ベンチに座ってバスを待っていると、横にちょこんと1人の男性が腰を下ろします。
「向かいにあるあそこのお店に行ったことあるかい?」
少し虚ろな目をしたその男性(推定46歳)が僕に話しかけてきたので、「いや、ないよ。どんなところなの?」と返事をします。
日本にいると体験できないことのひとつに、全然知らない人に平気で話しかけられるというのがあります。
カナダでは本当にしょっちゅうなので、特に気にも留めず「英語の練習になるな」くらいの気持ちでした。
ところがよく見ると、ちょっと様子がおかしいんですよね。目がトロンとしていて、鼻水が出ちゃってるわけです。なんか清潔感がないし、少しくさい、そんな気もします。ていうか、何言ってるかよくわかんない。ろれつが回っていないような、そんな感じ。
どうせ行けばわかることなので隠す必要もありませんが、バンクーバーには薬物中毒者が多くいます。だいたいいる場所は限られているので、普段はそのエリアには行かないようにするんですが、エリア外であっても街中を歩いていれば確実に見かけると思います。
「あまり関わらないようにした方がよさそうだ」という直感に従って、隣で一生懸命話しかけてくれる彼を受け流していたんですが、最後の最後になにか聞かれたんです。
「君はストレートなのかい?」と言っているようでした。
Are you straight?
です。最初は意味がわかりませんでした。「君はまっすぐか?」というのは「君の心がまっすぐで素直なのかひねくれているのかを聞いているのか」とも思いましたが、「ストレート」の意味を理解するのに時間はかかりませんでした。
「いえす」と答えると、そのおじさんは静かに歩き去って行きました。その背中を見て自分がたった今ナンパされていたことを察し、同時に多様な社会で生きていくというのは実は勇気のいることなのではないか、と思ったわけです。
カナダは性差別や人種差別に厳しい国です。世界中から移民を受け入れることで、様々な背景を持った人たちが共存する多民族社会。それは一見、マイノリティと言われる人たちが住みやすい社会のように思われがちですが、実際はどうなんだろう。
そういえば僕はフランスに行っていたときに、アジア人である自分を差別的な目で見てくるなと感じる瞬間が何度かありました。実際はどうなのかわかりませんが、そういうのって感じとっちゃいますよね。
カナダでは一切なかった人種差別の空気感がフランスにはありました。でもそれを経験して感じたのは、同じような気持ちになったことは初めてではないなということ。日本国内にいたって、属しているグループのなかで自分がなんらかの形でマイノリティと認識されれば、疎外感を感じたりイラッとしたりとかありますよね。
「海外に留学すれば異文化を経験できる」というのは、海外留学を美化するためのフレーズなだけで、異文化なんて人間社会に暮らしている限りどこででも経験できる。バス停で話しかけてくるおばちゃんなんて、たまに日本にもいるし。それでも、異文化は海外だけじゃないということに気がつけたのは、海外に出たからなのかなと思うと、留学も捨てたもんじゃないですね。
Naoki